文化の交流を遮るな
今年の九月、尖閣諸島の日本国有化で日中関係が深刻化する中、
北京市内の書店では一時日本関係の書籍がすべて当局の指示により
姿を消す事態になっていた。
今年のノーベル賞候補になっていた作家村上春樹さんは「文化
の交流は、言葉が違っても感情や感動を共有しあえる人間同士と
いう認識をもたらすことを、重要な目的としている」として、こ
の事態で文化圏の成熟が破壊されることを恐れていると朝日新聞
9月28日の紙面で語った。
かって、アメリカと全面対決した当時の日本もアメリカ映画・
ジャズ・英語の使用などを排除した。ラグビーは「闘球」、ゴル
フは「芝球」、スキーは「雪滑」、野球のストライクは「よし一
本」、ボールは「一つ」ファールは「だめ」アウトは「ひけ」と
叫んでいた。
シルバー人材センター英会話サークルの会員山田さんは、戦時
中英語の勉強しているのを、中学校の配属将校にとがめられ、殴
られ、教練の成績をゼロにして、進学にも影響するようにしてや
ると脅かされた経験をもっている。これらのことは、実に馬鹿げ
たことだったことが、今になり分かるのである。
今、人類は世界東西古今の文化の大海に棹をさして進んでいる。
国家間の対立や紛争のために、豊穣な文化の海への進路を遮るよ
うなことをしないのが人類の叡智であろう。
食文化でいうと、あの暴動で日本料理店が破壊されたことに反
発して、仮に日本で中華料理店が破壊されていたら、私はその愚
かさに、仰天し絶望の底に沈むところだったのだ。