ピンピンコロリ党のリビングウィル
西暦2000年、私はピンピンコロリ党であることを宣言した。そして、宣言文の代わりにエッセー
『ピンピンコロリ党宣言』を書いた。この宣言は私のメールの友達や「e-silver西宮」の仲間の人たち
に読まれ、「ピンピン元気に生きてコロリと死ぬことを目標とする」ことに、多くの賛同者を得た。今
はホームページ(e-silver西宮で検索)のエッセー集、01番にその改訂版が載っている。
このピンピンコロリ(P・P・K)という言葉が生まれたところは、男女とも長寿日本一で、しかも
一人当たりの老人医療費が全国最低と言われる長野県である。
1980年に長野県下伊那郡高森町で開かれた体育学会で、県より派遣された北沢豊治さんが、県民
に3年にわたり指導してきたピンピンコロリ運動を報告したのが始まりとされる。今では、P・P・K
発祥の地として、高森町の天台宗瑠璃寺境内にはピンピンコロリ地蔵が作られ、お守りや饅頭まで売ら
れているという。しかしながら、本当に広くP・P・Kが全国的に知れ渡ったのは1998年、医事評
論家の水野肇さんと岡山大学医学部教授の青山秀康さんの編著で『PPKのすすめ』が出版された時か
らだった。
この本は長野県を例にとり、長寿でも、健康でなくてはならない。自分で食べ、自力で排泄し、自力
で移動でき、会話ができる自立状態でどこまで生きられるかが大切と主張する。厚生労働省は、六五歳
から、寝たきりにならずに、何年自立して生きられるかという「健康余命」指標を使う。その指標でみ
ても、長野は自立余命期間が他県より長い。七〇歳以上の高齢者一人あたりの医療費は、全国最低の他、
入院した場合、平均在院日数は全国でもっとも少ない。自宅で死亡する割合は三割を超え全国最高だ。
そして、長野でなぜ元気な老人が多いか?この本では、その理由として「高齢者の就業率の高さ」、
「保健活動の充実」「在宅医療の普及」「食生活」「自然条件」など、いくつかの点をあげて説明され
ている。
私もこの本を読み、またシルバー人材センターの東京の本部の講演で「ピンピンと仕事をすれば、寝
たきりにならず、最後はコロリと大往生できますよ」と励まされ、「起て! 万国の高齢者、轟きわた
るp・p・K!」と歌まで作ってピンピンコロリ党宣言をしたのだった。
そして、宣言から13年が経ち、私が80歳を超えてからも2年が過ぎ。その間、なんとかピンピン
生きて、自立を保って活動してきた。これからもピンピンを続けるには、難しい場面もあるとは思うが、
強く自立を意識して挑戦して生きていかねばならない。
しかし、本当に難しいのはピンピンのあとに来るコロリである。自然にコロリと死ぬにはどうしたら
よいのであろうか?
私の父親は90歳で、朝元気に起きて顔を洗っている途中急に倒れ、救急車が到着した時には、もう
亡くなっていた。私の属しているシルバー人材センターのパソコン同好会で会長もされたことのある田
村さんは、午前中は元気に自宅でパソコンを使っておられたが、午後に急にコロリと亡くなられた。ま
だ70歳台ではあったが、私はピンピンコロリの先達として、心から敬服している。
このように、病院へ行くまでもなくコロリとなるのが一番良いが、普通なかなかそうはいかない。倒
れると救急車が呼ばれ病院へ搬送される。病院に入ると生命を維持するための色々な措置がなされるだ
ろう。
例えば、呼吸が出来ない状況であれば、気管に管が入り人工呼吸器で呼吸を続けさせられて、コロリ
から遠ざかる。飲むことや食べることが出来なくなれば、点滴で栄養や水分を補給出来る。また胃瘻や
鼻からチューブを通して栄養補給をすれば、いつまでも生き続けられる。日本の社会では生命の維持は
当たり前のことであり、医師や看護師もこれを至上命題としているので、ますますコロリが難しくなる。
さぁ! どうするか? それには、無意味な延命治療を止めてもらうためのリビングウィルを書いて、
常に意思を明確に示しておくことである。
リビングウィルとは、重病になり自分自身では判断ができなくなる場合に、治療に関しての自分の意
思を述べておく書類である。日本では、日本尊厳死協会の「尊厳死の宣言書」や、終末期を考える市民
の会の「終末期宣言書」、満足死の会のリビングウィル、などがある。
そこで、ピンピンコロリ党としても、終末の入院時には、リビングウィルを提示して、自然にコロリ
を迎えることが出るように備えることにした。
P・P・Kのリビングウィル
私はピンピンコロリ党(P・P・K)の党員です。党といっても、規約もなく、会合することもあり
ません。人生をピンピンと生き抜くこと、そしてコロリと死ぬことを宣言し、それに向かって進む人は、
みんな党の同志なのです。
私たちは、自分で食べることが出来、自力で排泄し、自力で移動し会話できる限り、最大限ピンピン
と生きます。しかしこれらが出来なくなって、介護に頼らざるを得なくなった時には、コロリと死ぬこ
とを願い、極力介護に頼る時間を少なくしたいと、本気で思っています。
そして、そうなった時、私自身については次のお願いをいたします。
@ 一切の延命のための治療はしないでください。
A 私が苦痛を感じているようなら、それを和らげる措置は最大限お願いいたします。
B 人工透析・胃瘻、またはその他の方法によるチューブ栄養補給・人工呼吸器の使用はしないでく
ださい。
チューブにつながれて、医療機器に囲まれて逝くのではなく、自然の姿て、その本来の寿命にゆだね
てあつさりコロリと死ぬのが、ピンピンコロリ党なのです。私自身もこのお願いをしたことに決して後
悔いたしませんので、願いを叶えていただきますよう、なにとぞよろしくお願いいたします。
私はこの終末期の医療・ケアについてのリビングウィルを、意識も清明で、内容を十分理解している
状態で書いています。
そして、私がすでにピンピンコロリ党宣言をしていることは、e-silver西宮ホームページエッセー集
01番により明らかであることを申し添えておきます。
2013年4月20日
自筆署名 捺印