アーモンドの花に惹かれて


From Chuhei
アーモンドの花 アーモンドの花
ブルーンの花 アーモンドの花
神戸東灘区の深江浜にある東洋ナッツ食品の庭にアーモンドなどの花が咲き3月20日・21日の両日、アーモンドフェステバルが開かれました。
阪神地区では、さくらより一足だけ早く、アーモンドの花が咲きます。



  

アーモンドの花に惹かれて 

 

 

「花が美しく咲きました。神戸市の深江浜です」

 

 3月17日(土)の朝のNHKニュースである。テレビ画面には、さくららしい花が満開である。

 

――おかしいな? 私の家の近くの夙川堤のさくらはまだつぼみなのに、それに深江浜にそんな所

があったのかな?

 

 よく聞くと、深江浜の食品工場の庭に約100本のアーモンドの木があり、それが花をつけたので、

一般に開放して昨日と今日の二日間、「アーモンドフェスティバル」をやっているらしい。また食

品会社らしく屋台を出して色々なものを売っているが、なかでもアーモンドコロッケを買うには、1

時間以上並ぶほどの行列が出来ているらしい。

 

 早速、その日、行ってみる事にした。妻に声をかけると、いつになく乗り気である。阪神電車香

櫨園から乗って1040分ごろ、深江駅で降りると、なんとアーモンドを見に行く人々で一杯である。

駅の西側の道路から無料バスが出るのであるが、案内の人がいてバスは1時間待ち、歩けば25分だ

という。

 

 ぞろぞろと多くの人々が南に向かって、43号線の架設橋を渡って歩いてゆく。さらに広い道路を

進むと深江浜の埋立地の右側に海が見える。近くに神戸商船大学があったところで、今は神戸大学

海事科学部となって、学生がカッターボートを漕いでいる。

 

――まるで、蟻の行列のようだ。続々と深江浜に人が続いている。

 

 途中街路樹のアーモンドが咲いている所がある。所どころ、フェステバルの、のぼりが立っている。

やっと、会場に着いた。そこは、東洋ナッツ食品という会社の庭であった。入り口でアーモンドの

種をもらって、中に入ったが花も満開なら、人も満員である。

 

――食堂はどちらですか

 

 妻が係りの人に聞いている。先ずなにか食べる事から、物事ははじまる。食堂は狭い階段を上がっ

た2階にあった。うどんとちらし寿司をセルフで売っている。ここも満員だ。私は立ったままでも食

べるつもりだったが、妻は強引に席を見つけて私を呼んだ。アーモンド入りのちらし寿司を食べた後、

工場の庭に下りると、この会社の従業員によるもちつき大会が始まろうとしていた。ついたもちを、

分けてくれるのか、ここも大勢の人が並んでいた。食べる事はもう止めて花を見て帰ることにした。

 

 アーモンドといっても色々な品種があり、咲く花も、白っぽいのと、紅っぽいのがある。また鉢植

えがあり、そのほかにブルーンの木が、白い花をつけている。遠い所からはさくら(そめいよしの)

の花盛りのようにみえるが、近寄るとアーモンドはさくらより花弁が大きいものが多く。ブルーンは

逆にさくらより花が小さい。中でも震災10年目に植えられた「曙光の木」と名づけられたブルーン

の花は枝一杯に隙間なく咲きほこり、多くの人々の関心を集めていた。

 

 この会社の記録によると、このアーモンドの木は、神戸市内の工場から深江浜に移転してきた昭和

53年に新築祝いとして、親しいカリフォルニアのアメリカのアーモンド会社の友人から送られてきた。

しかし、一年間検疫のため、農事試験場に預けられた後、20本が植えられたが半数が枯れてしまった。

 

 東洋ナッツは創業者中島泰介社長が、昭和34年日本で始めておこしたナッツ会社である。神戸でア

ーモンドが育つかどうか懸念されたが、社員の教育のためにも何とかしてアーモンドを植え続けるこ

とにした。

 

 そして苦心の末、三年目の春ついにつぼみが膨らみかけていた花が始めて咲いた。社員みんなが庭

に走り出てきて、大感激した。そんなところに、会社の前を通りかかる人に「どうしてこちらの桜は

こんなに早く咲いているのですか」と尋ねられた。

 

「これは桜でなく、アーモンドなんですよ」と社長。「それはなんと珍しい」ということになり、庭

に招き入れて、みんなで喜んだ。

 

 こうして、アーモンドの花を見に来る人が増え、昭和61年には第一回のアーモンドフェスティバ

ルが開かれた。

 

 しかしながら、阪神大震災で埋立地の道路の液状化があったり、その翌年には創業社長が亡くなり、

また続く不況で大株主の商社が倒産したりして、フェスティバルは中止を余儀なくされていた。

 

 それでもアーモンドの花を待つ、多くの人達の励ましがあり、平成10年に4年ぶりに再開された。

その後、創業社長の妻の昭子夫人もアーモンドの木の育成やフェスティバルには力を尽くし、台風で

木が倒れたり、枯れたことがあったが、庭園に大きな植木鉢を入れることを提案したり、苦心して木

を増やす努力をした。この夫人も平成20年に亡くなったが、年々会場にはますますアーモンドの花に

惹かれた大勢の人が集まるようになった。

 

 屋台に群がる人たちの中にはいって、妻はナッツのミックス缶やカシユーナッツの袋などを買った。

帰りのバスも工場の前に300メートルほどの列を作って人々が並んでいた。

 

 帰りはあえて、歩くよりバスを待つことにした。それは、花を求めて集まった大勢の人々の中に並

んでいても、いることが楽しく思えてきたからである。

 

 さくらの花が開花しはじめ、すぐに咲きそろうというのに、なぜ人々は、僅かに早く咲いたアーモ

ンドの花に集まるのだろうか? それは一日でも早く春のあかしを待つ気持ちで一杯の人々が多いか

らだろう。特に、今年は冷たく暗い経済危機のどん底にあって、明るくて、暖かい春の花をみんなで

楽しむ喜びを味わって、少しでも光がさしこむ明日に期待を寄せているのではないだろうか?

 

阪神間では、この日改装なった甲子園球場で選抜高校野球大会が開会し、その前の日からは阪神難

波線が開通して、阪神三ノ宮駅と近鉄奈良駅が、一本の線で結ばれた。そして、それぞれに賑わいを

見せている。またWBCでは侍ジャパンが大活躍を見せて盛り上がっている。私は華やかな花をつけ

たアーモンドに集まった大勢の人々を眺めながら、これらのことを思うと少し、明るい春の光が心に

さしこんだ気がしたのであった。

 

■■◆      宙 平
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