From Chuhei
武器を持てば使いたくなる

 2017年10月1日、アメリカネバタ州ラスベガスで、男がホテルの32階から、 大通りの広場で開かれていた、音楽会会場に向け自動式の銃を乱射58人が死亡、4 39人が負傷した。男はその後、自殺したが、ホテルの部屋からライフルを含む23 丁の銃と弾薬が発見され、男の自宅からはさらに18丁の銃と爆発物、数千発の銃弾 が発見された。これだけ武器を持ってはいたが、この男がテロ組織などに属していた 可能性は少なく、個人の武器愛好者の犯行とされている。

 アメリカでは毎年このような事件が続けて起こっている。銃規制がゆるやかで、銃 を所持する一般人が多いことが、その原因と言われている。

 武器を持てば使いたくなる。これは本来人間に植えつけられた本能ではないかと私 は思っている。人類が棒切れや、石の塊を利用することを知り、それによって狩猟し、 また戦いの武器として使用することを覚えた。そして、他の動物にないこの能力を格 段に発展させ、進化を遂げてきた。刀や銃が生まれ、やがて諸々の武器が使われるよ うになった。持てば使いたくなる気持は、今や人間の体内に本能となって植え込まれ ているのである。

 先の大戦中、私は恐ろしい武器を手にしたことがあった。当時の中学生には軍事教 練があり、訓練用の三八歩兵銃や、手榴弾を手にすることはあったが、それらは使い たいというより、上手く使わないと配属将校に怒鳴られる厄介な教材だったから、そ んな武器ではない。それはアメリカ爆撃機が落としていったエレクトロン焼夷弾の不 発弾だった。

 945年6月の尼崎空襲の翌日、中学2年生の私は学徒動員で勤務していた阪神 電鉄尼崎車庫工場へ出勤すると、工場横の広場に銀色に光る細身の焼夷弾の不発弾が 多く転がっていた。誰かが工場敷地内の不発弾をまとめたものかもしれなかった。

昼の休み、私は同じ電工小隊の友人とそれを手にとってみた。大阪や神戸の市街地 の焼き尽くしに使われた、あの緑色の六角形でどろどろの油状の強力燃焼剤ナパーム の入った油脂焼夷弾とはまるきり違う、マグネシュウムとテルミット(アルミと酸化 鉄の混合物)により出来ており、点火すると高熱を出し、白く輝いてまばゆいばかり の光を出す、という、見かけはスマートで美しい代物だった。

 それを手に持った私と2人の友人は、当たり前のように、横にあった変電所の階段を?階まで登り、 そのテラスから下の広場めがけて投げ下ろした。危険な行為であることは分かっていたが、 手に持った爆弾を投げつけたい気持ちを、3人とも止められなかった。2発が爆発し、 置いてあった材木に火がつき、工場は大変な騒ぎとなった。駆けつけた人たちで消火したが、 各小隊の2年生が全員集められて、その全員が引率の教師から拳骨で殴られた。上級生も自ら申し出て殴られていた。

 戦時中、日本陸軍の将校たちはみんな腰に長い軍刀を下げて歩いていた。日中戦争の 時二人の将校が軍刀を使って敵兵を切り倒す「100人斬り」の競争をしているという記事が写 真入りで新聞に出ていたのを覚えている。戦時中は武勇談として子供たち同士の間でも語ら れていた。戦後、この二人の将校は戦争裁判で「連続して捕虜及び非戦闘員を虐殺した 罪」の死刑判決を受け処刑されている。その後で100人も斬ったと言うのは、誇張されて いて事実ではないと論議になった。私は実際に軍刀を敵味方が激突する白兵戦で使わ れる機会は少なかったのではないかと思っている。しかし、100人という数字の 真偽は兎も角、おそらく密偵として捕らえられた者、又は反抗的だと思われる 捕虜を、軍刀を使って斬る対象としていたのは間違いないと考えている。

 日中戦争に参加され、その後長年大阪、京都、奈良でエッセー講座の講師を されて、私も15年にわたり教えを受けた井上俊夫先生は『初めて人を殺す』 2005年1月、岩波現代文庫)という著作を残されている。その中の《1 990年4月 戦友会にて》で、当時小隊長だった元少尉が、捕虜は「無闇に 殺すんやなくて、将校になる一歩手前の見習士官には軍刀による斬首訓練を、 兵士には銃剣による刺殺訓練を施すために、我が軍としては有効適切に殺して いたわけや」と語った話を書かれている。そして、先生自身、早朝に非常呼集 を受け、銃剣による捕虜刺殺に実際に参加したことも書いておられる。戦闘で 斬りむすび、激突した時に使う軍刀や銃剣を、訓練という名目のもとに抵抗で きない捕虜に使いたい、または命令して使わせたくてたまらない将校達が中国 への派遣軍にもいたことは確かなことである。

 武器を持てば使いたくなるのが人間の本性だとしても、武器の中には、恐ろ しい毒ガス、や核爆弾もある。こんなものを使いたい人間が使い出すと大変な ことになる。実際に、毒ガスでは1995年3月、オーム真理教が東京の地下 鉄車内でサリンガスを発生させ多くの人が亡くなった。原子爆弾の実験が成功 して、初めて実際に使うことを決定したのは1945年の先の大戦末期であっ た。アメリカ軍は日本本土上陸作戦を計画し、ソ連も参戦して占領後の日本本 土の分割案も作られていた。トルーマン大統領は原爆をソ連参戦前に使うなら、 もうソ連の参戦がなくても戦争を早く終わらせることができる、日本本土の分 割も必要ないと考え、8月6日に広島に原爆を落とした。慌てたソ連は日本占 領に乗り遅れてはならないと、8月8日、宣戦布告して満州、樺太に侵攻する。 すると、「もうソ連は来なくてもよいよ」とばかり、8月9日アメリカは長崎に原爆を 落とした。

 そのトルーマン大統領は1950年、朝鮮戦争では、中国共産党軍の東北部 の本拠に対して原爆を使いたがったマッカーサー司令官を解任する。世界戦争 への拡大を恐れたからである。マッカーサーの指揮する国連軍は仁川に上陸し、 北朝鮮軍を中国との国境近くまでに追い詰めたが、これを危機と見た中国共産 党軍は100万人の軍を投入して参戦、38度線付近まで押し戻す。戦線がそ こで停滞すると、マッカーサーは「戦域を中国とソ連にも拡大させて、中国と ソ連の主要26都市に原爆を落とそう」とも主張したといわれている。(早わ かり世界近現代史より)

 その後、原爆は水爆となり、核を保有する国は北朝鮮を含めて8カ国、その 他保有を確実視される国や保有開発を疑われる国は4カ国となってしまった。 そのなかでミサイルを重点的に進化させ、そのミサイルに核弾頭を搭載して、 それを使いたがっている国は北朝鮮であり、アメリカをその相手国としている。

 北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)委員長は2017年9月22日、トラン プ米大統領がミサイルや核実験で挑発を続ける北朝鮮を「完全に破壊する」と 警告したことに対し、「史上最高の強硬対抗措置」を検討するとの異例の声明 を発表した。その対抗措置の一つとして北朝鮮の李容浩(リ・ヨンホ)外相は、 太平洋での水爆実験をかつてない規模で実施する可能性を語っている。また 米国と追従勢力が正しい選択をするまで、正義の宝剣によって完璧にたたき のめすべきだ」(朝鮮労働党機関紙)「日本列島は核爆弾により海に沈められな ければならない。日本はもはやわが国の近くに存在する必要はない」(北朝鮮 の朝鮮アジア太平洋平和委員会による報道官声明)などともいっている。この ような声明に対し、「アメリカも北朝鮮も、お互いに脅し合いをしているだけ で、あれは本心ではない」という意見もある。しかし私の「武器を持てば使い たくなる」という考え方からすると、ミサイルも核も実際に使いたくてたまら ないのが本心である、と判定する。ただ彼らがすぐに使わないのは、使ったあ との結果が、有利に働くか、不利になるかの見極めが未だついていないからで あろう。

 使うのが、有利か不利か見極めをつかせるためには、北朝鮮とアメリカに、 核兵器を含めて持っている使いたい兵器を、お互い思い切り自由に使わせて見 れば良いのである。しかし実際に使うと大変なことになる。そこで、お互いに 向き合って、バーチャルで戦争し、その経過と結果を検証するのだ。本当に使 うのはバーチャル・コンピュータの大型映像と予測データーである。今は、戦 争・戦略のシミュレーションは、ゲームの域を超えて進んでいて、映像もデー ターも精巧で高度なものとなっている。

 このバーチャル戦争を提案するのはゲーム機器では世界一の実績があり、世 界最高性能を持つと言われるスーパーコンピユター「京」のシミュレーター機 能を使える日本が一番良い。「戦争」と言ってしまうと、誤解があるので「核拡 散防止のための、バーチャル実証会議」という名目で世界の主要国を集めて行う のである。

 2017年10月19日から21日の日程で核問題について話し合う「モスク ワ核不拡散会議」が開かれて、北朝鮮からは崔善姫(チェソニ)外務省北米局長 が出席した。アメリカ。日本、韓国はじめ約40カ国から300人の専門家や外 交官が参加している。会議ではロシアのラブロフ外務大臣が北朝鮮の核問題につ いて「いかに軍事衝突を回避するかが目下の課題だ。衝突は人的破滅、環境の破 壊を必然的にもたらす」と演説して、深い危機感を示した。

 しかし会合はここで終わっている。この会合に限らず他の核問題の会合でも、 ここで終わっては無意味である。具体的にどんな軍事衝突が有り、それによりど のぐらいの規模で人的破滅、環境の破壊があるかをはっきりと映像や数字で示し て、それについて北朝鮮、アメリカを含めて徹底的に議論をすることこそ、本 当の核不拡散会議なのではないか。日本はここで「バーチアル実証」の映像とデ ーターの提示を提案して大型映像画面でシミュレーションを実行すればよかった のに、と私は思う。

 しかし半面、北朝鮮・アメリカの両首脳参加の下に改めて実証会議を実施する 必要が、絶対にあるとも思っている。そしてその時、最初は北朝鮮のいう、太平 洋上の水爆実験のバーチャル映像を映し出すことから始める。水爆の種類やデー ターは北朝鮮提供のものを入力する。次の映像はそれによって起こるアメリカに よる北朝鮮軍事施設への先制攻撃だ。攻撃は数十箇所に及ぶだろう。これはアメ リカ提供のデーターを入力する。

 そして隠されていた大陸間弾道ミサイル2発が核弾頭をつけて北米大陸に向け て北朝鮮から発射される。一発は途中で撃ち落とされるが、もう一発はアメリカ 本土で核爆発をおこす。そして、韓国、日本の米軍基地に向けては、一斉に潜水 艦等によるミサイル攻撃が行われる。さらに、アメリカは平壌(ピヨンヤン)及 び2都市を核反撃する。

 ここで一旦、映像によるシミュレーションを止めて、これまでの双方及び攻撃 対象国の人的破滅数、環境の破壊状況の映像と核爆発地域の放射線による汚染度 とその広がりのデーターなどを出し、どれだけ実際の場合に近いかなども含めて 双方で議論し、各国とも意見をたたかわす。北朝鮮とアメリカがもっとやりたい のであれば。さらにバーチアル実証映像の攻撃とその結果の場面を続ける。最後 にはお互いの国と周辺国の大半が滅亡するまで続けることも可能である。

 そして充分に武器を使いたい気持ちが果たされた。もうお互い何の利益もない こんなことは止めようとなれば、核兵器を如何にすれば、世界から無くすように するかを、今度はお互いに。議論すれば良いのである。

 私は今や時代は進んでいて。地球上での核兵器の使用は、もう決してありえな いと信じている。急速に進んできているバーチャル・シミュレター映像技術は実 際を超えるばかりになり、兵器を持てば使いたくなる気持ちを満足させると同時 に、武器使用の悲惨な戦禍をはっきり映し出し、実際に核兵器を使用する馬鹿ら しさを具体的に示してくれるからである。

     (2017年11月1日)

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        宙 平
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