富士に想う |
富士に想う
見よ 東海の 空あけて 旭日 高く輝けば 天地の正気 溌剌と 希望は躍る 大八洲
おお 晴朗の 朝雲に 聳ゆる 富士の姿こそ 金甌無欠 揺るぎなき わが日本の 誇りなれ
その昔、私は子供の頃意味も分からず、また本当の富士山を見たこともないのに、こんな 愛国行進曲の歌を夢中で歌っていた。当時富士山は輝く強い日本の誇り高い象徴だった。ま た国民学校の上級になってからだと思うが、「愛国の花」という映画を見て、福田正夫作詞、 古関裕而作曲の歌を知った。
真白き富士の気高さを 心の強い楯として 御国につくす女等は 輝く時代の山ざくら 地に咲き匂う国の花
心に思う人と別れ、志願して従軍看護婦となって、戦地の兵站病院で働く女性が、両目を 負傷して運び込まれた兵士、それはかつての恋人に会うという筋書きだったと思う。その時 は従軍看護婦の凛々しい純白の姿と、麗峰富士の眞白の美しさが、一体となって私にその姿 の気高さを印象づけた歌であった。
敗戦あと、東京へゆく途中、初めて本物の富士山を見た。国が敗れ、富士山は強く気高い 象徴から、その姿に希望をつなぎ、気持ちを慰める対象に変わっているように思った。
その後は幾度となく、色々な方面から富士を眺め、その周囲の観光地を訪れた。ゴルフを するようになって、夏には標高が高く富士山を近くに眺められるコースを選んだこともある。
30歳台の終わり頃から、私はオリエンテーリングを始めていたが、自然の深い森の中に 置かれた幾つかの標識を巡って走るこの競技に最も適した場所が、この富士山の裾野に広が る森林だった。
山梨県側では、富士みどりの休暇村を会場として、昭和55年3月全日本大会が開かれ、 私も参加したが、春の大雪が降って山奥の標識の2箇所は、危険なため取り消しとなったこ とがあった。また静岡県側では、朝霧高原の西麓など雄大な自然を堪能することができる場 所が多い。御殿場市付近には「二子山」などプロマッパーによる立派な競技用の地図が作ら れている。また自衛隊の東富士の演習地で行われた競技に参加したこともある。標高の高い 富士丸火自然公園付近では、よく大会が開かれ私も参加している。間近に富士山を眺めて感 動したのは、昔の村山登山口付近の高台である。ここには村山浅間神社があり、付近には競 技に適した深い杉の森林がある。
富士を眺めて河口湖を2周する河口湖マラソンに参加したのは、私が52歳の時だった。 私にとっては初めての42・195キロで、5時間ギリギリで完走したが、膝が動かなくな り帰りの駅の階段を上がるのに苦労したことを覚えている。
そして、私が初めて富士山の頂上に登ったのは平成8年8月1日のことである。私は当時 64歳。オリエンテーリング仲間の皆川さん(当時73歳)島田さん(当時68歳)と一緒 だった。私は富士山の3776mで長く滞在し、行動することによって少しでも,高地トレー ニング効果が得られることを期待していた。オリエンテーリングで走る時に、最大酸素摂取 能力が高まり、多少なりとも全身の持久力が増大すれば良いと思ったのである。
皆川さんと島田さんは以前バスツアーで夜に登り、夜明けと共にすぐ下山する登山をした ことはあるが、あまりに慌ただしかったので、私の山頂近くで2泊する計画に賛同して2度 目の参加であった。
富士宮口新5合目から登り始め、標高3460mの9合目万年雪山荘で宿泊した。翌朝6 時37分出発、7時50分山頂の浅間神社奥宮標高3730mについた。休憩のあと、9時 30分測候所のある最高峰剣ヶ峰標高3776mに立った。あとゆっくり山頂火口を一周し た。お鉢巡りといわれているコースである。11時30分に終了。私は高地対応のためもう 一泊を山頂の小屋銀明館でしょうとしたが、この時間帯閉まっていて夕方まで開かない。そ こで、御殿場口を八合目まで下り、標高三三五〇mの赤岩小屋で宿泊することにした。翌8 月2日は宝永山に登り、落石の音が絶えない宝永火口を下って帰途についた。
2泊するぐらいでは、高地滞在の効果はあまりなかったとは思うが、その後も私はオリエ ンテーリングを続け、今年の6月9日も富士裾野市葛山での東京大学主催の大会に参加して きた。車に乗せてもらった柴田さんのお陰で、途中白糸の滝と富士山本宮浅間大社に立ち寄 ることができたが、すでに富士山の世界遺産になることを先取りして、両方の場所とも多く の人が集まっていた。白糸の滝などは滝へ向う道の整備工事をもう始めていた。
ユネスコの文化遺産に登録が決まった今、私は富士の遺産の一つとして裾野に広がる雄大 な森林についてはあまり人工を加えずに、自然のままに是非今後も守ってほしいと心から願 っている。そして、世界中からオリエンテーリング好きを多く集め、富士を囲む山麓の森林 の各地で10日間ほど続く選手権大会を開くことができれば、どんなに素晴らしいことか、 と思っている。
私は今年の8月1日からイタリアのトリノで開かれるWMOC(世界マスターズオリエン テーリング選手権大会)に出場する予定であるが、私の出る80歳から84歳の男子クラス だけですでに60人が登録している。全登録人員3700人、日本の国内では考えられない ことだ。こんな国際大会が富士山麓で開かれるのは果たしていつになるのか? 私の生涯で は間に合わないのかもしれない!
(平成25年7月10日)
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:★:cosmic harmony 宙 平 *−*−*−*−*−* |