干物の食べすぎか?   宙平氏  平成20年3月7日投稿
From Chuhei
 
 
 
明石の魚の棚商店街で私が写真の穴子ロールを買った事から、エッセーが始まります。
 
 
   
 
 
             干物の食べすぎか?
 
 
 
 二月一六日(土)に明石公園で、オリエンテーリングの会があった。私は若い人達と同じクラスに出場し、
四三分四一秒かけて走り回り汗を流した。成績順位は後ろの方だが、これは参加者の中で最高年齢者の私と
しては仕方が無いと思った。

 

 競技の後、明石で有名な魚の棚商店街へ行った。さすがにここでは、店の前に並べられた魚が元気よく跳

ねている。私は、ばあさんが一人店番をしている店で干物の穴子ロールを買った。干して伸ばした穴子に食

塩と調味料で味付けして袋に入れたもので、一袋五五〇円のところを二袋で一〇〇〇円にしてくれた。

 

 袋をぶら下げて、西宮の家に帰りそれを妻に渡した途端、怒り出した。

 

「賞味期限が、今年の一月一日で、とっくに過ぎてるやないの! こんなの食べたらあかん。買う方も買う

方やが、売る方も売る方や!」

 

 見ると、確かに袋の一つは期限が過ぎている。もう一つは四月の四日でセーフである。

 

「大体干物の賞味期限なんて、多少は融通がきくから食べても大丈夫だろう」

 

 といってみたものの、徹底した賞味期限厳守信奉主義者の妻に聞く耳は無い。すぐに包み紙にあった店の

電話番号を見つけ、抗議の電話を始めた。どうやら、あの店番のばあさんが出てしきりに謝っているようす

である。しかし容赦なく攻撃している。結局、最後に、店は期限内の同じものを送ってくる。こちらは期限

過ぎのものを送り返す。と言う事に落ち着いた。

 

 その日の夕食で、私は一合足らずの酒の肴に、賞味期限せーフの方の袋の穴子ロールをむしゃむしゃ食べた。

期限切れを買ってしまった反動で「これはうまい!」と殊更に、穴子三匹相当分以上も食べてしまった。

 

 翌日二月一七日(日)は、白浜で和歌山県民オリエンテーリング大会があり、大阪の寺田町から仲間の森さ

んに車に乗せてもらう事になっていた。

 

 ところが、朝の四時に手洗いに起き上がろうとしたが、身体がふらふらとして立ち上がれない。なんとか、

壁にもたれ込んで手洗いは済ませたが、戻って寝床に倒れこんでしまう始末。めまいでもないのに、天井が

ぐるぐる動いているように見える。それに頭が重い。とうとう朝の五時に、これも購入したばかりの携帯電

話を妻に寝床に持ってきてもらって、森さんにやっと、行けない旨の電話を入れた。

 

――ああ! とうとう俺も倒れてしまった。

もうこれで、どこへも行けない。いよいよ年貢の納め時か?

 

 昼ごろまで寝ていたが、さらに次の日の二月一八日(月)は雲雀が丘ゴルフ場へ徳岡さんたちと行く約束

があることに気がついた。そこでまた寝たままの携帯電話をかけて、断りを入れた。

 

 妻の持ってきた血圧計で計ってみると、上が二〇〇、下が一一〇もあった。

 

――こんな高い事は今までに無い。これは穴子ロールを食べすぎて、塩分が血中に回ったせいかもしれない?

 

 少し歩けるようになったので、ゴルフへ行く予定だった日に、近所の横山クリニックに行った。

 

「なにか塩辛いものを、たくさん食べたのと違いますか」

 

 横山医師はすぐに言った。私は穴子ロールを食べすぎた話をした。しかし、同時に前からその程度は食べ

ているが、こんなのは初めてだと付け加えた。

 

「血圧は寒さの影響もありますし、年齢からくるその人の体調もあります。そこに塩辛いものを食べたので

一時的に異常に上がったのかもしれません」

 

 医師は利尿薬と血圧を下げるカルシウム拮抗薬を処方した。

 

 そして、利尿剤が効いたのか、排尿が続くとやがて、ふらふら症状も良くなって、その日のうちに血圧は上、

一四〇、下、八〇と戻ってきた。

 

 ここで私は、明石魚の棚の穴子ロールの名誉のために言っておかねばならないのは、穴子ロールを食べたら

誰でも、私のようにふらふら症状になる事では決して無いと言うことである。賞味期限切れは感心しないが、

その症状の原因は、私の身体が塩分の取り過ぎに過剰に反応しすぎたことにある。このことを調べてみると、

人によって、また年齢によっても塩分摂取の反応は異なるらしいのである。

 

 要は七七才になって、私の身体は高齢化に伴い、塩辛いものを食べるのにも、無理が利かなくなってきたと

いう事ではないか。「いつも若々しいですな」と人に言われると、調子に乗って年齢のことを考えずに、食べ

たり飲んだり、また走ったりする事は、もう考え直さなければならない。

 

 確かに、私の家から阪急の夙川駅まで歩くのに若いときは一二分で充分に行けた。しかし今は、一八分ぐら

いはかかる。そこで無理に一二分にこだわると、私の身体のどこかにひずみが現れる。パソコンに向かってい

る時間の長さも、私の場合は六〇歳代の若いときと比べると、その三分の一ぐらいの時間でも、画面を見てい

るだけですぐ眼が疲れてしまう。そしてもう眼が開いておれなくなる。

 

 生きていくには、生活全般にわたり常に年齢相応の対応を考えなければならないと言う当たり前の事を、私

は今回はっきり悟った。

 

 しかしながら、なんでも「もう年だから……」と言う言葉に甘えて、積極的に生きることを諦めてしまうと、

これはまた、全く生き甲斐が無いことになる。

 

 高齢対応に生活のギヤを切り替え、その上で尚且つ前進! 前進! を図らねばならない。パソコンの勉強も、

外国語の勉強も、ジョキングも、積極的にしかし無理のない高齢者ペースで行わなければならない。

 

 こう考えると塩分でも、取りすぎると、血圧が上がりふらふらするが、反面塩分は生きる活力の元である。

穴子ロールも適量は食べるべきだ。

 

 その後わが家では、穴子ロールは妻によって食べる事を禁止され、品物は完全に食料棚の奥に封鎖されてし

まった。二月二〇日、ばあさんの店番していた魚の棚の商店からは、賞味期限有効の代わりの商品を、海苔の

瓶をおまけにつけて送ってきたが、これも食料棚の奥にしまいこまれている。

 

 二月二二日、私は遂に待ちきれなくて、厳かに宣言した。

 

「今日から、穴子ロールを食べるぞ!」

 

 妻はそれではと、毎日ほんの一切れと言うより一すじずつ、皿に載せて出す事で対抗してきた。

 

「そんなことしていると、またまた賞味期限が過ぎてしまうぞ」と私はさらに言った。 

 

  

■■◆      宙 平
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