くじらの池とテンプルちゃん


From Chuhei
 
 
甲子園の浜、東の端にある東屋の前の浜辺は、昔の浜甲子園阪神パーク
時代のの残骸が残っています。下の写真はライオンの顔です。
右の写真のように、大きく潮が引いた時に現れます。手前の鼻筋を見せて
いるのが、ライオンです。
 
 
   
 
 
昔の浜甲子園阪神パークには、くじらの池があり、ごんどうくじらが8頭もいました。
またテンプルちゃんの、アメリカ映画が見られる演芸場がありました。
 
 
 
                 
 
 
また、電気自動車や周回列車。アザラシの池やペンギンの島。お猿の島。水族館・演芸場・
大食堂・ボート池などが色々ありました。
 
 
 
 
    

    

 
     くじらの池とテンプルちゃん
 
 
 
 甲子園の浜辺の海中に、ライオンの顔の像が沈んでいる。そして干潟の時に現れることがある。
こんな話を聞いた私は今年の2月の末に甲子園浜に出かけた。14時頃、私は砂浜の東の端近くに
ある甲子園浜自然環境センターの前の浜辺の海中から頭を出し始めたコンクリートの塊を一つ一
つ見て回った。
 
 この辺は浜甲子園阪神パークのあった所で、昭和4年浜甲子園娯楽場として開園し、翌年浜甲
子園阪神パークと改称した。そして14年後の昭和184月、海軍の新鋭戦闘機、紫電改で有名
な川西航空機の工場に続く飛行場の建設のため閉鎖となっている。私は昭和6年、この甲子園浜
に続く今津の生まれ、この阪神パークの閉鎖時は国民学校6年である。私の幼い時の楽しい日々
の思い出の多くはこの浜甲子園阪神パークにあるのである。

 

 海に沈んでいるライオンの顔は、そのパークの噴水池の飾りだったと言われている。その日は

見つからなかったので、甲子園浜自然環境センターの3階にある学習交流室へ行って、係りの女

性にライオンの顔のことを聞いてみた。女性は窓際にある渡り鳥観察用の双眼鏡を浜辺の左に向

け、眺めながら言った。

 

「今日はダメみたいですね。春になり潮が大きく引いた時なら出ます。写真ならこの学習室にあ

りますよ」

 

 学習室の机の上には、ライオンの顔の写真のファイルや、ここにあった阪神パークの見取り図

などもあった。また壁には当時のくじら池や、電気自動車、周回列車、ペンギンの島などの懐か

しい写真があった。

 

 私は神戸海洋気象台の春の干潮時刻表を調べて4月の引き潮の大きくなる11日の1359分に目

標を絞って再びその日、自然環境センターを訪れた。学習交流室の女の人は私を覚えていて、

「ライオンの……」と言うとすぐに双眼鏡の所に走って、「ほれあそこに、海草にまみれていま

すけれど……」と指を差した。  

 

 私は潮干狩をしている人達もいる干潟に駆けつけ、ライオンの顔を見つけた。この顔に会うこ

とは、私の幼い日に出会うことである。

 

 貝殻で顔にへばりつく海草を削り取り、口の中につまった貝殻を取った。やがて鼻筋がはっき

りして、ひげの線が出た。私は昭和12年7月に亡くなった祖父の顔を思い出した。 

 

 祖父は孫娘の姉をつれてこの阪神パークに出かけるのを楽しみにしていたようだ。ある時、二

人でボートに乗ったが、ボートが転覆して濡れたまま帰ってきた。池は浅かったので事故にはな

らなかった。

 

 大阪に住む母方の年上の従兄たちが、甲子園の球場や浜に来るときによく家に寄り、たびたび

阪神パークに私を連れ出した。ライオンの顔のある噴水池の後ろには大きなくじら池があって、

はじめてくじらを見た私は胸を躍らせていた。和歌山太地沖からのごんどうくじらが8頭もいた

と言う事である。

 

 もう一つ記憶にあるのは、演芸館でテンプルちゃんの映画を見たことである。それこそ天使の

ように可愛いアメリカの名子役だった。当時の日本でもブロマイド写真は飛ぶように売れていた

という。私の幼い頃の憧れの少女はこのシャーリー・テンプルだった。後に彼女は有名な外交官

になり、国連でも活躍する。

 

 しかし、戦争が進んで行くと、急激に夢の世界は消えてしまう。昭和17年、西宮北口に少年

練成施設「航空園」が出来、私の足もそちらに向かい、そして遂に夢の国、阪神パークは壊され

軍用飛行場になってしまった。

 

「戦争で、お前はこんなところへほうり出されて終ったんだなぁ!」私は語りかけた。

 

 懐かしそうにじっと私を見つめていたライオンの顔は、かすかな声で「そして誰もいなくなっ

た」と呟いたように思えた。

 

 従兄たちはその後、それぞれ軍人となったが、すでに亡くなり、また姉も逝き、昔の浜甲子園

阪神パークを知る人は、確かに周りに誰もいなくなった。        (平成21年5月)

 

  

 ■■◆      宙 平
■■■     Cosmic Harmony

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