架空対談

　　　　　　村上ファンドは阪神をどうするのか

宙平　二月二日現在、阪神電鉄株の四四・四九％を村上さんのところで、すでに保持しておられ経営権が取得できる水準に近づいています。いよいよ村上タイガースが出現するのではないですか。

村上　馬鹿なことを言わないでください。私は球団の経営などする気はありませんよ。ただ私が言っているのは、球団株を上場して利益を得れば親会社の株主にも高配当がある。株を公開すれば、フアンが株主として球団経営に参加できるということですよ。

宙平　しかし阪神側は強く反対し、また野球協約でも球団上場の禁止を盛り込もうとしています。

村上　日本屈指の人気球団が、上場して懸命に一層よいチーム作りに励めば、会社もフアンも幸せになれると考えているので、残念なことです。しかしタイガースの上場だけが、私の提案ではありません。

宙平　経営資源を有効活用せず、株価を安値に放置する経営者は、企業の買収に怯えねばならない、と日頃言っておられますが……

村上　それは今の阪神のことをそのまま指すわけではないのです。しかし、阪神は梅田にハービスなどを持つ、一等地の大地主です。さらに余剰金が四五九億円、有価証券四一九億円があります。所有不動産の活用でもまだまだ期待できます。楽しくなってくるような夢のある会社ですよ。

宙平　私は街のタイガースフアンの一人であり、乗車券を年に何十枚かをもらい、年に一回甲子園球場の公式戦に招待してもらう程度のささやかな古くからの株主だったのですよ。タイガースが負け続けているときは、阪神の株価も低迷していました。それでも何時か勝利する日を信じてじっと辛抱していました。そして、リーグで優勝したときは、株価が上がりました。そのあとはまた株は下がるのです。それでも売らずにまた次の優勝目指してじっと持っていたのです。保持したままタイガースの勝ち負けで動く株価を見ることが、私の楽しみでした。

村上　阪神の株価の示す企業価値はタイガースの勝敗にあったわけですね。

宙平　ところが、昨年（平成一七年）九月ごろから、変わってきました。株価の上が

り方が異常なのです。村上さんのところが買っておられることがわかりました。リーグ優勝した後も日本シリーズが終わっても下がらず、上がり続けました。このままではどうなるか不安になってきて、私は株価が千円を超えたところで、昨年末全部売りました。異常に上がる株はいつか異常に下がるからです。村上さんには、早く阪神と決着をつけて頂いて株価を安定させてほしいと思っています。安定すれば売った株を買い戻そうと思っています。

村上　私は、経営のやり方によってはもっと上がってもよいのに、今まで放置されていた株だと思っています。それほど異常とは思いません。

宙平　しかしファンドとしては、何時かは、手放されるのでしょう。そのとき阪神はどうなっているのでしょう。そして株価は……

村上　私は阪神電鉄とそのグループは阪神間の生活文化インフラの重要な担い手であると理解しています。私も阪神電車を利用して大阪から灘中・灘高に通っていましたから、阪神百貨店もタイガースも馴染み深いものがあります。だから企業価値・株主価値の向上のお手伝いをさせていただいているのですよ。

宙平　先日の講演で、阪神電鉄株を外資系企業から五〇％上乗せ価格で買い取ると申し出があれば、投資ファンドの性格上売らざるを得ない、と言われたとお聞きしていますが本当ですか。

村上　それは、例え話として、一般的なファンドの性格を話したものです。

宙平　今アメリカのモルガン・スタンレー証券が阪神電鉄株の五・一九％をすでに持っています。モルガン次第で村上ファンドと合わせて経営権を手中にする五〇％以上を買い取ることは決して難しいことではありません。

ゴールドマン・サックス社あたりが名乗りを上げるのではという人もいるようです。例えばですが、ゴールドマン・タイガースになれば、ユニホームも縦じまから、ゴールド色になるぞ、という話もあります。

これは阪神関係者やタイガースフアンにとっても、大変な事態ではないのですか。

村上　経営者は、のほほんとはしておれないのです。私どもは出資者として、提案や相談はいたしますが経営はいたしません。そして、正に今、阪神鉄道の役員の方々は対策や今後の方向について、真面目に真剣に取り組んで頂いています。しかしファンドは何時かその性格上、投下資本の収益を求めるという原理に従わねばなりません。

宙平　村上さんのファンドは、資本の激烈な戦いの最前線にあると思います。コンプライアンス（法令遵守）に留意されて、ご健闘を祈ります。

村上　その点については、当然のことです。ご心配には及びません。

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