桜男さまへ


From Chuhei
 
今年の4月9日、朝8時 阪神香櫨園駅プラットホーム北側バルコニー
からの桜です。
 
 
今年も白鹿記念酒造博物館で笹部さくらコレクション春季特別展が開かれました。
 
  
 
 
 
 
  桜男さまへ
 
 
 
 彼の岸のはるかに、おわします桜男、笹部新太郎さまへ。
 
 今年も西宮市の夙川公園を彩る桜花と共に、笹部さくらコレクション春季特別展が、
白鹿記念酒造博物館で開かれました。貴方のご遺志により西宮市に寄贈された約5千点
に及ぶ、桜に関する書画・美術工芸・資料などの他に類を見ない貴重な「笹部コレクシ
ョン」が毎年展示されているのです。
 
 私は香櫨園に住んでいる者ですが、今年も近くの夙川の桜に人々が集まり始めた頃、
貴方の桜コレクションを拝見しに出かけました。
 
 多くの展示品の中で今年私の気を引いたのは、昭和43年『桜男訪問記』を書いた白洲
正子の次の歌が展示の中にあったことでした。
 
  遠代に桜子という女あり
    愛(は)しけき友は桜男か
 
 あの「花の下にて春死なむ」と歌い「桜狂い」と呼ばれた西行に打ち込んだ正子から、
愛しけき友桜男と言われた貴方は91年の生涯の大半を桜の保護・育成に捧げられました。

 

 明治45年東京帝大を卒業された貴方は、宝塚市武田尾の土地を譲り受け、桜の演習林

「亦楽(えきらく)山荘」を造園して研究に打ち込まれました。そして私財を投じて本

来の日本の山桜・里桜の育成に取り組まれました。 

 

 大阪造幣局の「通り抜けの桜」の管理指導。近江舞子の千本桜の植樹。御母衣ダムに

沈む樹齢400年の桜の世界植林史上稀有といわれた移植など数々の桜の育成に尽力されま

した。貴方のことは水上勉の小説『桜守』の桜研究家竹部としてモデルにもなりましたし、

この小説はNHKのテレビドラマにもなりました。

 

 貴方は昔、新聞紙上で西宮の夙川堤の松並木の美しさをたたえておられたことがありま

したね。夙川堤は昭和7年に公園事業としての工事が始められ昭和12年に竣工しました。

川の石組み、植木、遊歩道の完成など当時としては大規模な工事でした。そして戦争を

はさみ、昭和24年まで千本に及ぶ桜の苗木が植えられました。

 

 貴方はこの夙川に山桜や里桜を植える指導をされました。それは甲山や満地谷にも及

びました。今、松の緑を背景に川の流れをうずめるように咲きほこる、夙川の桜花に酔

うことが出来ますのも、全く貴方のご努力のお陰にほかなりません。改めて感謝の気持

ちを捧げる次第です。

 

 さて、今年は4月5日に、この夙川で「西宮さくら祭り」が開かれました。昭和41

に始まったこの祭りも今年で43回目となりました。この日は天候にも桜の開花にも恵ま

れ会場の中心となった片鉾池の広場では、色々なイベントが開かれ、多くの人達で賑わ

いました。夙川公園の桜は平成2年「日本さくらの名所100選」に選ばれ、平成18年「日

本の歴史公園100選」選定されるなど、全国的に有名になり、遠くから来られる方も年々

増えています。

 

 さくら祭りの日、私はシルバー人材センターの地元浜脇地区のグループの清掃活動に参

加しました。ごみ袋を持って夙川のJRより南側を、タバコの吸殻などのごみを拾って歩

きました。そのあと夙川堤の桜の下でグループ毎に分かれて、巻きすしとお茶でささやか

な花見の集まりをしました。私は貴方のことを偲びながら、さわやかに花を楽しみました。

 

 彼の岸の彼方にはどんな桜が咲いているか、私には分かりませんが、美しい花の下にお

られる貴方のもとに、早速「韋駄天のお正」といわれた白洲正子が駆けつけていることで

しょう。水上勉もひょっこり顔を出すかも知れません。そしてはるか遠い彼方から西行が

現れ、「ねがわくば……」と歌っているかも知れませんね。どんな桜談義が交わされるか、

私はそれを想い、心をときめかしています。

                     (平成21年4月13日)

 

 

 

 ■■◆      宙 平
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