私の散歩道(その1)
   
   
私の散歩道(その1)
      
               万葉植物苑(西田公園)
  
                        いわ・いき

    あしひきの 山道も知らず 白橿の 枝もとををに 雪の降れれば

 柿本人麿が詠んだ一首。大伴家持、柿本人麿、山上憶良、山部赤人などの万葉の時代の歌人は、

目に映った草花などに託して心豊かに詠み上げ、多くの歌を残した。 

 この歌人たちが愛でた草花などを育てている万葉植物苑が、西田公園にある。市内に住まいされて

いた万葉集研究の第一人者、故犬養孝大阪大学名誉教授の監修により昭和63年に完成した。

 万葉歌人の和歌とともに開花時期などを記した陶板の歌碑が随所にある。万葉歌の数72首。

 私にとって古文は半ば外国語のようなものだが、歌碑に書かれた和歌を読むと解らないままに、

何か心洗われる気持ちになる。

 しかし、万葉歌人に讃えられた草木にはこの地で生育するのが難しいものがあるらしく、数年前に

ヤマザクラ、ハナモモ、コウゾ、ニワトコ、ホオノキ、クワ、ヤマブキ、ミツマタ、カラタチなど20数種が

補植されたという。それでも残っているのが、完成時の半分ほどとのこと。

 西田公園は、阪急電車の車窓からもよく見える。一際目立つ松などの木々に覆われた樹叢。

石垣の間にある階段を昇ると、よく手入れされた樹木が心を落ち着かせてくれる。

電車の通り過ぎる音が聞こえるが、周囲の街から隔てられた別天地でもある。しかし、今ここに佇むと、

この冬の取り分けて厳しい寒さは、何となく気持ちを寂しくする。

(2015年2月)