From Chuhei
テレコミュニケーション

私は88年を生きてきて、室戸台風の大風水害、肺結核流行、B―29による1トン爆弾 攻撃、油脂クラスター焼夷弾大量投下の猛火災、阪神淡路大震災、などは体験してきている が、今回の新型コロナウイルス攻撃の緊急事態で、人と接触せずにステイホームしなければ ならない、というのは初めての経験である。新型コロナは感染しても無症状の多くの人が、 他人に感染させて悪化させる恐れがあるという曲者で、人を見れば感染者と思わなければ ならない状況を作り出した。そして、人との会合はほとんどすべてが中止となった。会計 報告や総会、意見交換などは、すべて電子機器でしなくてはならなくなった。

まずは私の所属していた、シルバー人材センターの同好会の会合が、3月からすべてでき なくなった。私は英会話サークルのマネジャーをしていたので、中止する連絡はメールと 電話でして、3月末の会計報告は会計担当の方にお願いして、ファックスで私に送って もらっておいて、再開したときの最初の日に、みんなに知らせることにした。

もう一つの同好会はパソコンの「e-silver西宮」で、今まで、決算報告の総会をみんなが集 まって開き、その後で懇親会としてお酒を飲み食事をして、時にはカラオケで歌っていた。 私は役員をしていたので、会長から今回はどうするか、についてメールがあった。私は全員 がパソコンに精通している同好会だから、当然メールのやり取りだけで総会はできると思う、 と返事をした。4月17日会長は6項目の議題(事業報告・収支決算報告・事業計画・収支 予算報告・役員改選・規約改定)を同好会の全員にメールで送り、返信で賛成を取り付け無事、 総会は会合することなく終わった。が、懇親会を楽しみにしていた人には、物足りなかった ことだろう、と思った。

そして、毎月1編のエッセーを書いて提出している、朝日カルチャーセンター中之島のエッセー 随筆教室も4月4日から休講になり、集まった会員仲間同士が、お互いの作品を読み感想を のべ合うことができなくなった。そうすると、仲間の人たちからメールがきて、 「ネット上で、作品を送り合って教室と同じように、お互いの感想や意見を出し合いましょう」 ということになった。エッセー作品のネット交流はそれぞれの機器の扱いの事情もあり、9人の 仲間全員とはいかないが、早速まず2人の人から作品が添付メールで送られてきた。私も 「e-silver西宮」ホームページにアップされている新しい私のエッセーを、ホームページに訪問 して読んでもらって、送られてきた作品には感想を書いて、「全員に返信」でメールを返した。 エッセー作品の内容は、やはり、どれも新コロナウイルスに関連していた。そして、それぞれの 作品にエッセー随筆教室の宇澤先生からも、また仲間からも感想意見がメールで送られてきて、 教室は休講でもエッセー作品はなんとかして書き続けたいと思っていた、私の気持ちが高まった。

そんな時だった。私にとっては、扱うのが難しい困った総会の案内が来た。それは、私も会員である 大阪オリエンテーリングクラブが「ZOOM」というアプリで、会員お互い自宅にいたまま、映像と マイクを使っての総会を4月29日に開くというものである。4月からオリエンテーリングの競技 大会は、ほとんど中止か延期となり、クラブの計画していた練習会は延期、合宿も中止となっている。 そんな時だから、せめて映像で顔を合わせようではないかということだった。しかし、どうやって映像 とマイクを出せばよいか、私のパソコンには自分の姿を送るカメラがあるのかどうかなどが、よく分 からない。ネットで調べてみると、「ZOOM」はビデオWEB会議アプリで、アメリカの会社が専門に 扱っている。パソコン・スマホ・タブレットなどの端末からのビデオのミーティング・会議ができる。 普通の有償料金はパソコンやスマホ同士の場合は1ユーザー月額1980円~。本格的に大画面を 使っての会議は1ライセンス月額4980円となっているが、今回のクラブの総会は無償のトライアル 版を使うのだろう。無償のトライアル版は性能には変わりはないが、時間が40分すれば自動的に 切れてしまう。総会の時間が長ければ、全員が何遍も繰り返して再開のトライをしなければならない のだろう。

総会の3日前に、メールがきて総会の前にみんなが「ZOOM」が使えるか試してみようと、会議練習用の IDとパスワードがクラブから送られてきた。各人が「ZOOM」をダウンロードしておき、指定の時間に IDとパスワード、を入れると、みんなの映る画面に参加できるというのである。私のパソコンにはカメラ 機能があるかどうか分からないので、私はスマホで試してみることにした。スマホのアプリのアイコンを タップして、IDとパスワードを入れると、確かに会議練習に参加している人たちの何人かの顔がスマホ 画面に映った。ところが声が聞こえない。私は少し焦って、画面のアイコンをタップすると、他の形のアイ コンに変わったり、画面が消えてしまったりする。そんなことを繰り返していると、他の人も私の顔には気 が付いているらしい、指で何か示したり、「声が聞こえていますか」という字が出たりする。しかし、どう しても声が通じないので、首を振ってこの日は画面の「退出」の赤い文字をタップして止めてしまった。

途中で退出してしまったので、私を心配してくれた、良く知っている委員の会員から、メールが来て、 「本番の総会の1時間前に個人でお互い練習をやりませんか、絶対に声も通じるはずですから、やるなら 別のIDとパスワードを知らせます」とあった。本番は4月29日午後3時からである。その前の午後2時 にそのIDとパスワードをスマホにタップすると、相手の顔が映ったが、声が聞こえない。するとスマホの 電話が鳴って、「スマホ画面を横に左から右へタップすると、大きな字で会話するにはここをタップと出る はず」と教えてくれた。そして、やっとお互い姿を見ながら会話することができて、私は有難く感謝して、 本番の総会に参加することにした。

総会の始まる直前、私はスマホと一緒に総会用のIDとパスワードをパソコンに、キーボードで打ち込んでみた。 パソコンにもアプリをダウンロードしていたのを思い出したからだ。すると、パソコン画面にみんなの顔が映り、 その中に私の顔もあるではないか。私のパソコンにもカメラが入っていたのだった。

「ZOOM」の会議は22人が参加して始まった。最初は新しい人もいるので、一人一人の自己紹介から始まった。 私は来年のワールドマスターズゲームズ90歳台の出場を目指す、最も年齢の高い会員だが、中心は4・50歳 台で20歳台や大学生の会員も近頃は増えている。若い人は「ZOOM」になれているのか、背景に大きな絵画、 地図の大写しなど、自分の顔の後ろに写るものを考えて参加していた。会議は活動報告、会計報告、役員選任の ほか来年の2月21日に、クラブの設立45周年を記念して箕面の山地で大会を開くことなどを決めて終わった。 その間2回ほど時間切れで会議再開のトライがあったが、発言する声もよく聞きとれ、資料の大写しも読みとれ、 私には大変面白く感じられた。このように「ZOOM」で総会をしたのは、初めての経験となった。

この「ZOOM」については、5月2日の朝日新聞夕刊に「誕生ZOOM寄席」として、若手の講談師、落語家たちが、 このアプリを使った有料配信の寄席を始めた記事が出ていたが、コロナでステイホーム体制の今、このアプリは色々 な活用が、他にもできそうに思えた。

新型コロナウイルスを地球の上から完全に抹消させることが大変難しいことが分かってきたのか、近頃はこのウイルス との共存をする社会になってゆくべきだ。または、共存してゆかざるを得ない。ということがいわれるようになって きた。人への感染力の強いウイルスと共存するということは、人と密接しない、密集しない、密閉しない、の比重を 高めて生活するということに他ならない。そうなると職場ではテレワーク、学校ではテレラーニング、病院では遠隔医療、 そして、ネットシヨッピング、銀行のネット取引、などが一層盛んになり、人との交流はテレコミュニケーションが 主流となってゆく。

これは、新型コロナウイルスが、無症状でも人から人に感染し、感染したあとに抗体ができたとき、もう感染には大丈夫 かどうか分からないあいまいさを残し、感染が治まったように見えても、スキがあれば第2波、第3波と波状的に おしよせる全く嫌な攻撃の仕方をするウイルスであることが、全世界の人々のコミュニケーションの習慣や方法に、 革命を起こさせるのである。と、私は考えている。

(2020年5月12日)

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宙 平
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