Everlasting Passion-スポーツへの情熱をいつまでも


小嶋 裕です。エッセーを送ります。
 
From Chuhei
 
写真の上は、トリノでの世界マスターズゲームの行進、種目別のプラカードを掲げています。
下はWMOC(世界マターズズオリエンテーリング選手権)の開会式、セストリエールの町で
行われました。国別のプラカードで行進しました。
 
 
下の写真は右から8月4日、スプリント競技決勝。中は8月8日、ロング予選2、
左は8月10日、ロング決勝、それぞれのフィニッシュ前の私です。
 
 
8月9日、イタリヤ側からのモンプラン観光に行きました。右の写真は山頂ですが
私の撮ったものではありません。同じように見えたのですが、霧のためチャンスを
逃しました。左の写真は山頂に霧のかかったモンプランと、フランス側に抜ける展
望テラスからの道で、雪と霧に立ち往生している私です。
 
 
 

Everlasting passion

 

―スポーツへの情熱をいつまでもー

 

 トリノの大行進とセストリエールの大歓迎

 

 今年のWMOC(世界マスターズオリエンテーリング選手権大会)はトリノで行われた

世界マスターズゲームズ大会に組み込まれ、その中の一つの種目となっていた。そんなわ

けで世界中からバスケットボール、ソフトボール、スイミング、射撃、ラグビー、柔道、

テコンドウ、その他29種目の選手達が8月3日、トリノのビットリオベネト広場に開会

式の行進のために集結した。私もツアー仲間の16名と一緒に、午前中のモデルイベント

(練習会)のあと、この広場に着いた。

 

 16時にこのマスターズゲーム大会の行進が始まる予定が、なかなか始まらない。広場

は夏の日差しが照りつけて暑いので、周りの回廊に避難してビールや飲み物を飲んで行進

を待った。そんな中にも日本の女子ソフトボールの選手達や、バスケットボールの選手達

もいて、他国の選手と交流して盛り上がっていた。

 

 18時いよいよ行進が始まった。王宮前のカステード広場に向けて、競技種目別のプラ

カードを掲げてトロリーバスの走っていた主要道路約2キロを行進する。トリノ市はその

時間、道路の交通を止めて、カステード広場には大スクリーンを配置し行進の様子を映し

出して大歓迎の意向を示す。市民は行進の両側を一杯にうずめ、盛んに声援を投げかける。

 

 世界マスターズゲームズは「世界中のすべての年齢者にスポーツを」を目的として、1

985年カナダのトロントで行われて以来、原則4年ごとに世界の各地で開かれている。

 

 競技は35歳以上(水上競技は25歳以上)誰でも参加でき、年齢5歳ごとに一つのク

ラスとして区切られ競技が行われる。

 

 最高を競うオリンピックや世界選手権の選手だけがスポーツ選手ではない。年齢は高く

てもスポーツ参加への情熱を失わないものは立派なマスターズのスポーツ選手である。ま

たオリンピックの限られた種目だけがスポーツ競技ではない。広く行われている競技の種

目はマスターズの種目となりうる。

 

 高齢の選手も、オリンピックの種目にないオリエンテーリングやテニスやゴルフまたオ

リンピックの種目から外されそうなソフトボールの選手も、眼を輝かせて、生き生きと行

進している。沿道に詰めかけた市民の顔もみんな輝いて、日の丸の小旗を見て「ジャポネ

ー!」と声を上げる。

 

 そうだ! スポーツは人類の作り上げた文化だ。そして我々の目指すのはそのスポーツ

への情熱をいつまでも持ち続けることだ! Everlasting Passion ! それが、我々の

モットーだ。

 

 行進が終わり、王宮前にぎっしり集結した選手団と観衆から抜け出して、ツアー仲間と

ホテルに帰るバスに乗り込んだのは20時を回っていた。

 

 次の日に今度はWMOCの開会式があった。オリエンテーリングのEC(イヴェントセ

ンター)は、トリノの西方、車で2時間の山地の町、セストリエールにある。街の中心部

の標高は2035メートルで、取り囲む周りの山には夏でも雪が残っている。2006年

オリンピックのスキー滑降競技はこの町が中心になった。

 

 この日は午前中のスプリント競技(短距離で街の中、公園などで行われる)の予選のあ

と16時、オリエンテーリングの選手が国別にEC前に集合した。

 

 今度は国別のプラカードを掲げて行進する。どの国のプラカードも地元の若い女性か、

少年が持って先頭に立つ。ところがJAPANのプラカードは、中年の小太りのおじさん

がもっている。どうしたことかと思う間もなく街の中央広場に向けて行進した。ここでも

町中の人が集まり、歓迎の言葉を投げかける。広場では行進の先頭に立っていた音楽隊が

派手に演奏を続けている。そしてこの音楽隊はまた別の制服を着た女性の指揮する音楽隊

と入れ替わり、街中あげての開会式をさらに盛り上げていった。

 

 開会式が終わったとき、プラカード持ちのおじさんが、手振りで日本チームに付いて来

いという。皆で集まってなんとか聞き出してみると、このおじさんはルイジさんといい、

この式典の役員もしている。日本にも行ったことがあり、日本女子ソフトボールの役員の

一人とも友人である、とのことである。馴染みのコーヒー店に入り、ツアー仲間の16人

全員にイタリアンコーヒ(エスプレッソ)をご馳走してくれた。

 コーヒも美味しかったが、このような町の個人ぐるみの歓迎に、心から感謝した。

 

 スプリント競技は決勝Aグループに残った。

 

 

 8月4日の予選はセストリエール北東の町プラジェラートで行われた。2006年のオ

リンピックで使われたスキージャンプ台の下の広場がゴール地点となった。

 

 男子80歳クラスは参加50名、直線距離1・5`、登り30メートル、コントロール

(標識)数、16、で、私は19分40秒で走った。23位で決勝Aグループに入った。

26位以下は、決勝戦でBグループとなる。

 

 8月5日の決勝戦は開会式のあったセストリエールの広場がゴール地点となった。男子

80歳決勝Aクラスに残ったのは25名、距離1・2`、登り48メートル、コントロー

ル数、10、北の広場のスタート地点に行くと、95歳クラスのナンバーを胸につけたス

エーデンのルネ・ハラルダソンさんがスタートを待って待機していた。小柄だがアインシ

ュタインによく似た顔立ちだった。この大会での最高齢者、そして見事にこのスプリント

競技だけでなく、あとのロングディスタンス競技でも完走を成し遂げるのである。正に

Everlasting Passionの超人である。

 

 私は決勝では15位、26分21秒だった。一箇所だけ行き過ぎて戻ったのが時間をと

った。 

 

 この80歳決勝Aでは、同じツアー仲間の高橋さんが3位で銅メタルを獲得した。16

分08秒。1位のスエーデンの選手12分46秒には及ばなかったが、昨年のドイツの大

会と同じ、見事な銅メダルであった。日本からは各クラスを通して33人参加しているが、

昨年も今年もメダルを取れたのは、高橋さん一人だけだった。

 

 今年は私の属している大阪OLクラブから楠見さんも男子50歳台に参加している。和

歌山県のOL協会も束ねる大ベテランである。スプリント競技では男子50歳台は163

人もいる。決勝で楠見さんはBクラス82名中、28位、22分12秒だった。

 

 夕方、高橋さんのメダル祝いを兼ねて、ツアー仲間がレストランに集まった。ビールと

ワインで乾杯のあと、高橋さんは「日本人は走る時間も体力も決して、引けを取らないの

に、国際大会ではなかなか成績が上がらない。不思議だ。もっと自信を持ってやるべきで

はないかと思っている」といった。そして私に今回男子80歳クラスで、決勝Aに進んだ

のは素晴らしかった。次のロング競技でも決勝Aに入るべきだと励ました。私も「高橋さ

んも今度はロングでメダルを取って欲しい」といった。しかしメダルを取るには、行き過

ぎの戻りや、迷いによる立ち止まりなどしては絶対にダメ。止まることなくノーミスで全

力疾走を続ける必要があるとのことだった。

 

「ノーミスで全力疾走? うーん!」私は腕組みして、考え込んだ。《今の私に出来るだ

ろうか?》

 

ロング予選、マップアウトからの脱出

 

 ロングディスタンス競技予選は2囘、2日にわたりセストリエール西南のセサナで行わ

れた。その前日、近くの山地でモデルイベント(練習会)があった。傾斜の急な岩の多い

斜面で地形の大体の傾向がわかった。

 

 8月7日ロング予選1。男子80歳クラスは参加53名。距離3・2`、登り120メ

ートルであるが、そのスタートの前に我々がテントをはったゴールのある地点からスター

トの地点まで行くのに1460メートルを歩き、90メートルの高さを登らねばならない。

そして決められたスタートの時間の4分前にはチェックを受けて、枠に入り、1分ごとに

枠を進み、その間に、コントロールの位置説明書を受け取り、自分のクラスの地図を確認

して、時間と共に、地図を取って走り出すのである。すぐ先に、フラッグ(スタート標識)

があり、それが地図上のスタート位置△になるのである。この日のコントロール数は11

であった。

 

 失敗はEからFへ向かう途中に起きた。山の斜面を横断して、水飲み場が設けられてい

る道に出てホッとしたのであろうか、道の分岐を右に行くべきところを、多くの人につら

れて左に行ってしまったのである。地図をあまり見ずに、どんどん進み過ぎた。

 

 ふと気がつくと、自分が地図のどこにいるのかさっぱり分らなくなった。それもそのは

ず自分の持つ地図の外にマップアウトしていたのだ。しかし、普通はマップアウトすると

人はいなくなるし、他のコントロールが置かれていることなどはないのですぐに気づくの

だが、今回は違った。私のクラスの地図を持つグループと、もっと広く描かれた地図を持

つグループがあることをその時は気づかなかったのだ。私は広い範囲の地図の場所(私の

持つ地図にはない場所)に紛れ込み、マップアウトしたことも分からずに、「迷い」のど

ん底に落ち込んだ。

 

 こうなると、確かな場所まで、必死に戻るしかない。コンパスだけを頼りになんとか脱

出した。47分52秒かかった。完走はしたがこの日だけで2時間6分27秒。ロングの

A決勝に残ることは、遠ざかってしまった。

 

 8月8日、ロング予選2。男子80歳クラスは参加47名。距離3・4`、登り100

メートル。この日は朝から雨が降りだした。決められている私のスタート時間は11時5

7分と遅いのでテントの中でじっとしていると寒い、さらに雨も激しいので会場のテント

張りの店で雨用のヤッケを買った。25ユーロと高いがこれを着て走ろうと、ナンバーカ

ードを付け替えた。ところがなんと40分前になって私がスタート地点に行こうとした時

に、急に雨が止み、太陽の光が差してきた。あわててヤッケを脱ぎ、再びナンバーカード

を付け替えた。この日のコントロール数は14、大きなミスはないが、速く走れなかった。

1時間39分15秒、43位。結局ロング競技では完走組には入ったが、ロング決勝はB

クラスとなった。

 

 イタリヤ側からのモンブラン

 

 ロング決勝は8月10日である。8月9日はモデルイベント(練習日)となっていたが、

ツアー仲間ではこの日、フランスとイタリア国境のモンプラン(4807メートル)の観

光に行くことにした。バスをチャーターしてセストリエールから3時間、山麓の町クール

マイヨールに着き、そしてケーブルで3335メートルの展望台へいった。ここからさら

に急な尾根道を、3375メートルの展望テラスまで登った。モンブランの雪の山頂は霧

が晴れた瞬間に斜め上方に現れたが、すぐに隠れた。ここからフランス側の展望テラスに

通じる深い雪の道を進んだが、霧で何も見えなくなり途中で戻った。ここまで来るとザイ

ルを繋ぎ、アイゼンをつけた本格的な登山者の姿も多かった。

 

 80歳台ロング決勝Aクラスに残った高橋さんは、一人でモデルイベントに参加練習し、

観光には来なかった。さすがメダリストだと私は感服した。

 

 リフトに乗って行くロング決勝                                                                                                                                                                                    

 

 ロング決勝の行われたクラビエールはセストリエールの西方にあり、高い台地が会場と

なった。そこへはバスを降りてから、リフトを2囘乗り継いで上がつてゆくのである。雪

をつけた山に囲まれ、抜群の風景であった。

 

 ロング決勝、男子80歳台Bクラス。参加26名、距離3・1`、登り120メートル。

スタート地点は会場からさらに40分かけて登った地点だった。コントロール数15、途

中、かなり急な岩場の下りがあった。私は慎重に下ったので時間がかかった。2時間4分

30秒、Bクラス9位となった。Aクラスの高橋さんは、27名中16位、1時間25分

16秒だった。男子50歳代Bクラスの楠見さんは、91名中47位、1時間46分14

秒だった。

 

 残念ながらロング競技では日本人選手のメダルはなかったが、険しい山岳地帯を走り抜

いた達成感でツアー仲間みんな、明るい顔をしていた。明日8月11日はトリノからパリ

を経て、成田へと帰国する。

 

WMOCは来年2014年ブラジル、2015年はスエーデン、2016年はエストニア、

2017年はニュージーランドで開かれることが既に決まっている。

 

 Everlasting Passion のモットーからすれば、私の命のある限り参加し、Aクラス

へそして、メダルへと挑戦し続けなければならない。2016年には私は85歳台クラス

に参加が可能になる。

 

 私の眼よ! 足よ! 腰よ! 心臓よ! 内臓よ! 脳よ! そして私の生命よ! な

んとか今より衰えることなく、WMOCに行かせておくれ!

 

 

                    (2013年8月25日)

 

☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆-☆
:★:cosmic harmony
      宙 平
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