ゾンビ(Zombie)
ゾンビとは「生ける屍」という意味として知られている。元はアフリカコンゴの神「ンザンビ」に由来し、
不思議な力を持つものの意味が、妖怪からさらに「活動する死体」へと変わってきたといわれる。
日本でもゾンビの集団を名乗るグループがいる。オリエンテーリングをするグループでは京都大学オリエ
ンテーリングクラブOB・OGで構成する「ゾンビーズ」である。その団長は宮内佐季子さん。2004年オリエ
ンテーリング全日本選手権女子エリートの優勝者である。
今はアドベンチャーレーシングクラブのプロ講師であり、いつも世界のアドベンチャー競技で活躍している。
私は道のない急な山坂をハイスピードで駆け上がる大学生時代の宮内さんの姿に目をむいて驚いたことがある。
その「ゾンビーズ」が今年5月30日、京都大文字山を中心にウルトラロングのオリエンテーリング大会を開
いた。ここで言われているゾンビとは、急斜面を半死半生の状況(ゾンビ化)になってへばりついていること
をいうらしい。要項には「参加者をゾンビ化するために超激斜面と微地形をふんだんに使用したコースを設定
した」とある。そのクラスZEは12キロ、地図は2枚分の範囲を使う。ただ若年者や高齢者もいるのでZAの8キ
ロ、ZASの5.5キロのクラスも作られた。
私は早く走れないが、ゾンビになっても規定時間の5時間以内にZASのクラスなら挑戦出来るだろうと思っ
て参加した。
「月はおぼろに東山」「燃える思いの大文字」
情緒的に歌われている山々だが実際は、北の銀閣寺の北側から、南の琵琶湖疏水の付近までの間で、東へ山
を登り始めると急峻な山坂や、深い谷に直面する、ゾンビ適地である。
会場は地下鉄「蹴上」駅から600メートルの日向大神宮会館である。私は9時35分、会館の軒先に設置された
ユニットに、渡されたEカードを挿入すると、時間が記録されてスタート開始となった。コントロールは11、
地図は競技図専門家ペローラ・オルソン作図の1万分の1。
地図をたよりに、@の沢を目指してとにかく東に向かう。進んでいるのは標高218メートルの日御山付近か?
山の東北の急斜面上の小沢にコントロールがある筈である。道の交差から見計らって急斜面に飛び込む。たちま
ち滑り落ち尻制動。木につかまって小沢・小尾根を探したが無い! うろうろしているうちに、早くもゾンビ化。
斜面の底からはい上がって再び道に戻り、地図を見ていると10メートル程先の斜面の茂みから若い女性が2人
飛び出してきた。そこへ飛び込むと「あった!」私の降りたところから少しの違いだった。この違いが時間をと
って、スタートしてからすでに、53分56秒もたってしまった。早い人なら10分ぐらいで通過しているだろう。
この道を北へ下れば、七っの道が1箇所で交差する七福思案峠である。Aの穴は北東の南禅寺山197メートルの
頂上付近にある。南禅寺に向かう谷道を選んで進む。駒が滝の岩場の右を回り込んで沢道に入ると、山の斜面が
左側に現れる。急だ! どこから取りついてもゾンビになりそうだ。茂みの少なそうなとことに取り付くと、上か
ら石が転がり落ちてくる。誰かが上にいるらしい。やっとたどり着いた山頂は平べったいが,穴などなさそうだ。
うろうろしていると、西側の茂みに人影が走った。穴は見えにくいところにあった。
Bはなんとここから北東1.5キロ、標高466メートルの大文字山から真南250メートル下の沢である。有名な大の
字の火が点されるのは、この大文字山より600メートル北西にある前山で火床といわれる斜面である。Bへのルー
トとは全く関係ない。
南禅寺山を降りたところに,山中の墓地があった。新島譲の墓もこの中にあるらしいが、今はひたすらコンパス
を頼りに北東へ進む。
枝道を突き抜けると,大日山から大文字山への道へ出る。しかし目標は頂上ではなく南の沢である。沢と言って
も微地形だから尾根の中に小沢がある。Bに達したときは2時間13分52秒スタートから経っていた。Jまで何時間
かかるのか? Cへはまず道のない尾根を登る。大文字山ピーク直下の下道に出て、回り込んで一般尾根道に出ると,
多くの登山する人たちに出会う。その尾根を乗り越え北側に下って小尾根の先の岩にコントロールCがあった。
Dの沢を目指して再び一般尾根道への急斜面を登る。こんなのが続けば本当にゾンビになってしまう。尾根道を少
し火床の方に進むと、今度は南に細い急な沢道を駆け下る。鹿ヶ谷二の谷の上流に出る。大きな岩のあるところから
川を渡り、対岸の斜面に取りついて登り切って、木の茂った小沢でDをチェックした。次のEは大きな沢の中の尾根。
まずは鹿ヶ谷三の谷へと下る。急な斜面はすべり落ちそうで恐ろしい。何を考えたかどんどん三の谷道を下流に向け
て下っていた。待て! 反対だ! 上流に向けて進まねばならぬ。やがて川幅は狭まり、Eのフラッグが見えた。有
難いことに給水場ともなっている。団長の宮内さんがいて、ここへたどり着く人をチェックしている。私を見て名前
を呼び「水のほかコカコーラーもコーヒもありますよ」といって、紙コップにコカコーラを注いでくれた。この山に
は自動車の通る道はない。宮内さん等がここまで飲み物を担ぎあげてくれたものだ。ビスケットももらって一息つい
た。すでに3時間36分29秒の時間がスタートしてから経過していた。その間、何も飲まずに来た。
Fの岩崖の下、Gの沢は近くにあった。ここから、Hの大日山南西の溝の終わりを目指して、一路南に進む。山を
巻いて尾根を進むと急斜面の藪の中に溝の終わりがあった。次いで私はIを目指して真っ直ぐそのまま沢を降りた。
なんとAへ向かうとき通った南禅寺の谷道に出てしまった。再び七福思案峠まで登り、神明山218メートルを巻いて
暗い沢に入った。こんな誰も通らない淋しい沢に一つだけ碑が立っている。その西南にIがあった。これは墓かもし
れない? なぜこんなところに? 昔,この暗い沢で何かがあったのか?
南無阿弥陀仏を口ずさんで坂道を転げないように気をつけて走り下り、Jの沢の上部へ、これは、道から見えた。
いよいよ、山の上から日向大神宮の境内に入り階段の下のゴールのユニットにEカードを挿入した。時間は4時間
57分44秒、なんと規定時間ギリギリセーフの完走。
日向大神宮会館で、完走賞をもらい、靴を脱いで、更衣室になっている畳の間に入った。座った途端、左腿から
膝にかけて筋肉が引きつって痛くて動けなくなった。
とうとう! ゾンビの神が、最後になってやってきたのであった。
■■◆ 宙 平
■■■
Cosmic Harmony
■■■